「交通広告グランプリ2020」
グランプリ受賞記念インタビュー
交通広告グランプリ2020にてグランプリを受賞したアディダス ジャパン。JR新宿駅の中央通路壁面、天井、フロアまでもをシートでラッピングし、ランナーに刺さる数々のショートメッセージと共に「速さは、ひとつじゃない。」という世界観を鮮烈に印象付けました。アディダス ジャパン株式会社トーマス・サイラー副社長と、制作担当者の福田新氏に、この広告作品が生まれた背景を伺いました。
トーマス・サイラー副社長
インタビュー
トーマス・サイラー
1970年ドイツ生まれ、1998年にアディダスに入社。サッカー部門を経て、ストリートファッション部門である「アディダスオリジナルス」に関わるようになる。以後、16年にわたってドイツ・ヘルツォーゲンアウラハにあるアディダス本社に勤務。2015年から、アディダス ジャパン株式会社副社長を務める。
──1949年のアディダス設立と同時期に生まれたスリーストライプは、トレフォイルやバッジオブスポーツといったロゴを生み出し、一目見ただけで世界中の人がアディダスを想起するようになりましたが、アディダスにはブランドの価値を高めることについて、どんなアイデアがありますか?
サイラー副社長:ブランドに関して一番重要なのは明確なビジョンを持つ事だと思っています。「私たちはスポーツを通じて人々の人生を変える力を持っている」これがアディダスの企業信念です。バッジオブスポーツ、トレフォイル、スリーストライプ、全てにこの信念が根付いています。次に、消費者がブランドを目にして、感情がかきたてられるようにしないといけません。そのために、ロゴを見る時の体験を大切にしたり、ストーリーを語ったりします。アディダスはシンプルな計算式を持っています。私たちが商品を展開する時には、必ず物語が紐付いているのですよ。
──確かに、過去に展開されたキャンペーンでも特定の“人”にフォーカスすることで、興味深いストーリーが語られました。ストーリーテリングは、アディダスが地位を確立する重要なプロモーションだと思いますが、競合スポーツブランドが多数ある中で、マーケティング戦略はどのように行われているのですか?
サイラー副社長:まず、その場所に合うスポーツを定義します。日本であればサッカー、ランニング、トレーニング、アスレチックを重要なスポーツと捉え、それをライフスタイルやストリートウェアに取り込みます。アディダスの持つ豊かな歴史から、色々な要素を取り出しストーリーテリングを行いますが、その際、柱になるのがイノベーションです。アディダスは常に新しいテクノロジーを打ち出してきました。
──最近では3Dプリンターを使ったアウトソール搭載シューズ「4D」がありましたね。
サイラー副社長:そうですね。そして、次がサスティナビリティです。海洋環境に配慮し、プラスティックをリサイクルしたマテリアルで商品を作ったり、私たちは世界中のスポーツブランドの中で最もサスティナブルなブランドになることを目指しています。イノベーションとサスティナビリティ、この2本の柱を通して私たちは消費者が他のブランドとアディダスを差別化してると考えています。
──最後に、日本の交通広告に対するイメージを教えてください。
サイラー副社長:私自身少なくとも1日1回は電車に乗りますが、スマホを見る以外の時間はモニターなどの交通広告を多く目にするし、かなりインパクトがあります。毎日電車を使う方の数を考えると、影響力は計り知れないと思います。
「速さは、ひとつじゃない。」
アディダス ジャパン株式会社
こちらの作品は、JR新宿駅、中央通路の壁面、天井、そしてフロアまでもをシートでラッピングし、『速さは、ひとつじゃない。』
という世界観を創出した新宿スーパーラッピングでのダイナミックな展開です。
福田新氏インタビュー
福田 新
1988年生まれ、静岡県出身。2011年に大手広告代理店入社。その後2014年にアディダス ジャパンへ入社し、「アディダス オリジナルス」や「ハートビートスポーツ(ラグビー、野球、テニス、バスケットボールなど)&アスレティクス」カテゴリなどの担当を経て、2019年より現職である「サッカー&ランニング」カテゴリのブランドコミュニケーションシニアマネージャーを担当。
──作品タイトルにもなっている「速さは、ひとつじゃない。」に込めた想いについてお聞かせください。
福田氏:現在日本におけるランニング人口は、約960万人とも言われています。そのひとりひとりが、異なるモチベーションで、異なる目標を持って、異なる速さで、異なる距離でランニングと向かい合っています。同様に、人それぞれランニングシューズに求めるものも異なります。アディダスは純粋な記録やトップスピードを求めるランナーだけでなく、あらゆるランナーのみなさんに対して適したプロダクトやサポートを提供したい、という想いを込めて「速さは、ひとつじゃない。」というメッセージを発信することにしました。
──言葉がポイントだと思いますが、メッセージ制作で大切にされたことはありますか?
福田氏:今回の広告展開では、異なる速さのランナーに対してただ幅広い商品ラインナップを紹介するだけではなく、あらゆる速さのランナーに役立つような100個以上ものTIPSや豆知識を大きなスペースを通して伝えております。先ほどお伝えした通り「あらゆるランナーに適したサポートを」という想いを体現するべく、マラソン大会や日常のランニングに挑むランナーにとって「お守り」になるような言葉を届けることで、アディダスがプロダクトに留まらない形で実際にランナーの役に立てるようなコミュニケーションを目指しました。
──JR新宿駅をジャックされた展開でしたが、出稿されるにあたってどのような経緯がありましたか?
福田氏:さまざまな路線が乗り入れていて、世界一の乗降客数を誇る駅ということももちろんですが、それは同様にあらゆるスポーツモーメントのハブとなっている駅とも言えます。新型コロナウイルスによってあらゆる状況が変わってしまったのは事実ですが、さまざまなスポーツモーメントに向けた入口となるコミュニケーションが展開できる場所であるということ。そして、他にないバラエティに富んだスペースの使い方によって、他とは一線を画するコミュニケーションが展開できるクリエイティビティに溢れたスペースということで、新宿駅での出稿を決断しました。
──空間ジャックにあたっては、どのような工夫をされましたか?
福田氏:どれだけ特別な体験を提供し、記憶に残すことができるかを常に心がけています。そのためには、一方的にブランドが伝えたいことをスペースに落とし込むのではなくて、お客さまがどんな気持ちでその場所にいて、どんな情報を本当に求めているか、逆に彼らにどうしたら予想外の驚きを与えられるのか。今回選び抜いた100個以上のTIPSも、本当にランナーの心に残る内容になっているか、適切な伝え方になっているのかなどチームで徹底的に一字一句までこだわりぬきました。また、天井・壁面・床と、あらゆるスペースに対して目の届き方も異なるので、入れるべき情報や要素も変えています。天井は世界観の演出、壁面はインフォメーション、床面はアソビと役割を分けて作り込みました。特に床面は走る速さの歩幅が感覚的に伝わるような表現にすることで、より大きな興味を持ってもらえたのではないかと思います。
──今後、交通広告に期待することをお聞かせください。
福田氏:コロナ禍によって、よりデジタルでパーソナルな広告が重要度を増す一方で、逆にフィジカルな場所だからこそ意味を持つ広告展開や、リアルな場で見るからこそ強いインパクトを残せる広告展開がより際立つと思います。一方的な情報伝達ではなく、その場所だからこそ見たい表現ができるプラットフォームとして、より豊かな表現が実現できる環境になっていけばいいなと思います。駅や媒体によって、その場所ごとの特性がもっと色濃く打ち出されていても面白いのではないかと思います。